幾多のオーナーの変遷と閉鎖を繰り返しているブラドノック蒸溜所。
ローランド地方の数少ない蒸溜所の一つでもあり、2000年代に入ってからの再開でボトルデザインなどを一新しています。
そのクールなデザインからもこのウイスキーの虜になる人も数知れず。
今回はそんなブラドノックの特徴とラインナップ、蒸留所の背景をご紹介していきます。
ブラドノックの場所
ブラドノックはグラスゴーから南に160キロほど進んだ、ウィグタウンという街にあります。
ウィグタウンは古本屋が多く立ち並び、「スコットランドの国立古書店街」とも呼ばれているところです。
蒸溜所はブラドノック川のほとりにあり、
どちらかというとウィグタウンの外れに位置しています。
また植物学上でも珍しい野生のランが蒸溜所近くの森に自生しているのだとか。
蒸溜所の名前
ブラドノック蒸溜所の名前は近くにあるブラドノック川から取られたものとなっています。
他の蒸溜所同様に名前の由来を探ってみたところ、これがなかなか見つかりません。
ゲール語では”Blaidneach”と呼ばれているのはすぐに見つかったのですが…。
また、歴史的に見るとブラドノックの地域ではゲール語だけではなく、
ブリソン諸語を話す人達も居たと考えられます。
したがって語源をあたるにはそちらの方も視野に入れて探す必要がありそうです。
(管理人の力では探しきれませんでした、、、すいません。。)
時折、ブラドノックを「平らな低い土地」という意味だと説明しているところもありますが、それは間違いです。
この「平らな低い土地」はブラドノックがあるマッカース半島のマッカースの意味であり、
ブラドノックの意味ではありません。
マッカースは他にも「肥沃な平原」という意味も持っていたりします。
マッカース・ビーチ
(引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Machars)
ブラドノックの歴史
ブラドノックは1817年にジョン・マクレランドとトーマス・マクレランドによって創設されました。
1845年頃には蒸溜所の作業者を20人近くにまで増やし、年間35万キロ近くの大麦をスピリッツへと変えています。
1878年に蒸溜所の近代化、そして1887年には自社の耕作地拡大を推し進めていきました。
このように80年以上マクレランド家によって運営が続きます。
(引用:https://bladnoch.com/)
しかしながら1890年代には禁酒運動の影響もあり、
1905年には供給過多及び売り上げ低迷により蒸溜所は閉鎖してしまいます。
その後1911年、北アイルランドの会社であるダンビル&カンパニー(Dunville & Co.)社が蒸溜所を購入し、
断続的ではあるものの創業を開始します。
1930年代に入ってからダンビル社で一族の後継者が居ない事態が発生し、
会社をDCL社(Distillers Company Ltd.)へと売却してしまいます。
ブラドノック蒸留所はギリギリ取り壊しは免れたものの1937年に2度目の閉鎖になりました。
そして新オーナーになったグラスゴーのウイスキー仲買人、
ロス・アンド・コールターは蒸留所の設備や熟成されているブラドノックの原酒をスウェーデンへと売却してしまいます。
1956年にA.B.グラント社(A.B.Grant & Co.)が操業を開始しますが、
1964年にマクゴーン&キャメロン社(McGown & Cameron Ltd.)が買収し、
1966年にポットスチルを4基に増設します。
しかし1973年にインバー・ハウス・ディスティラーズ(Inver House Distillers)が買収。
さらに1983年、アーサー・ベル社(Arthur Bell & Sons)が買収してコンピューター制御などの近代化を実施します。
アーサー・ベル社も1985年にギネス(Guinness PLC)に買収されました。
そしてギネスが1986年にDCL社(Distillers Company Ltd.)と統合しUD社(United Distillers)へと変わります。
次々とオーナーが目まぐるしく変わりますが、
1993年にブラドノック蒸留所は閉鎖になってしまいました。
(引用:https://bladnoch.com/)
1994年にレイモンド・アームストロングという北アイルランドの建築家が別荘地としてブラドノック蒸留所を購入します。
当初のアームストロングの計画では、ウイスキー作りではなく蒸留所の場所を転用することが目的でした。
しかしながらアームストロング自身がブラドノックのある土地と住民たちを愛していた上、
蒸留所を完全に別荘地としてしまうことで地域から活力を奪ってしまうのではないかという懸念がありました。
近隣住民の応援もあってアームストロング氏は少量でもウイスキーを生産させてもらえないかUD社に交渉し、
年間10万リットルの生産という条件で2000年から蒸溜を開始します。
しかしながら2009年~2010年頃に蒸溜を停止し、2014年には破産申請をするまでになってしまいます。
最終的には2015年にデイビッド・プライヤー(David Prior)というオーストラリアの実業家と、もともとScotch Whisky AssociationのCEOであったギャビン・ヒューイット(Gavin Hewitt)が蒸留所を購入し、2017年に操業を再開、現在に至ります。
デイビッド・プライヤー氏
(引用:https://bladnoch.com/)
ブラドノックのラインナップ
現在日本で手に入るブラドノックの種類は5種類あります。
実際には他にも種類がありますが残念ながら輸入されておりません。
また、ブラドノックを飲んだ全体的な印象としては燻製香とは違う「クセ」みたいなものが感じられる気がします。
ブラドノック10年
バーボンカスクで10年熟成の原酒を使用したもので、レギュラーに相当する1本となっております。
バニラや自然の草木からくるような穏やかな甘い香りと、スパイシーさや麦芽のコクが味わうことができます。
ブラドノック11年
カルフォルニア産の赤ワイン樽及びバーボン樽で最低11年以上熟成したもので、2020年からリリースされ始めました。
熟したオレンジなどの柑橘系や麦芽の甘い香りがありつつ、酸味と甘みの調和とコクが味わえます。
ブラドノック サムサラ
カルフォルニア産の赤ワイン樽及びバーボン樽で最低8年以上熟成したものです。
「サムサラ」はサンスクリット語で再生、新生、生まれ変わりなどの意味合いを持ちます。
まさに蒸溜所の再開を示してますね。
チーズっぽい特徴的なコクのある香りと、柑橘系フルーツのジャムや麦っぽさといった味わいが感じられる1本となっています。
ストレートでじっくり頂きたい1本となっています。
ブラドノック アデラ
オロロソのシェリー樽にて15年以上熟成させた原酒が使用されたものです。
「アデラ」はラテン語で高貴さ、気品のある様を意味する単語になります。
レーズンのようなフルーティさと芳醇で濃厚な面を持ちつつも、
コーヒーの様な香ばしさが感じられる1本です。
ブラドノック タリア
バーボン樽にて27年以上熟成した原酒が使用されている長熟ウイスキーです。
「タリア」はヘブライ語が基となっており、神の雫や天からの雫という意味を持ちます。
味わいは非常に滑らかな舌触りがありつつもドライな印象です。
余韻は非常に長く、クローブやシナモンの様な甘いスパイス類をじんわりと彷彿させてくれます。
管理人はリニューアル後の新生ブラドノックのボトルデザインに一目惚れして購入してしまいました。
この四角いボトルが何故か非常にそそるんですよね。
また、閉鎖から復興まで紆余曲折を経る蒸溜所は少なくありませんが、
このブラドノックは類を見ないくらい激動の時代を歩みながら今に至ります。
歴史に思いを馳せながら1杯飲んでみるのもおすすめです!